数字の意味
 

  私たちは,日常、数字を使うことが多いが、どうも数字が使われるとそれを絶対視してしまうようである。 そこで,数字がひとり歩きをするなどという表現があるのであろう。これは数字は左脳に入りやすく右脳のコントロールを受けにくいせいかもしれない。

 健康に関係したいろいろな調査でも,数字がたくさんでてくる。一般的に, 人の健康に関しては,人体実験ができないことが多いから出てくる数字は,動物実験のものであるか、疫学調査のものであることが多い。

 疫学調査とは例えば,タバコを吸う人と吸わない人とでは肺がんにかかる率はどうなるか,ということを調べる場合に,タバコを吸う人たちのグループと吸わない人たちのグループで,肺がんになる率をそれぞれ調べてみるといったものである。

 この場合注意しなければならないのは,仮にタバコを吸うグループの方が高い数字が出たとしても,ほかの要素が絡んでいてそうなる場合があるということである。

 例えば,大気汚染と平均寿命との関係を町村や都市の分布をキイにして調べると,当然,大気汚染は村よりも都市の方が激しく,平均寿命も村よりも都市の方が一般的に長いから,大気汚染は平均寿命を長くするという調査結果が出ることになる。これはなんとなく(常識的に)おかしい。

 このようなことを防ぐためには,ある程度因果関係を論理的に推定してから、調査を行わなければならない。この推定の部分を巡って社会的に争いが起こることが多い。

 いまひとつには,考え方(見方)の差によって数字の意味が変わるという点がある。図は,アメリカで調査された一日の喫煙本数と肺がんによる死亡率との関係を示すものであるが、これは,ヘビースモーカーは非喫煙者の20倍以上の率で肺がんで死亡することを示しているというたばこの害を強調するために、多く使用される

 しかし、他の見方をすると,へビースモーカーであっても10万人のうち99,700人は肺がんで死ぬことがないということでもある。

 タバコの場合は,多数の研究結果からみて,肺がん以外にも健康上望ましくない影響があることは,まちがいないと思うがそれでもまだ論争がないわけではなく,数字の読み方は難しいと思う。

 
図 肺がんによる死亡率と―日の喫煙本数との関係